令和4年 予備試験 刑訴  再現

第1 ①の行為について

1(1)Pは捜索差押令状に「A方居室」(刑次訴訟法(以下法名略)219条1項)としか書かれていないにもかかわらず、キャリーケースの中を捜索している。このように場所のみの記載の令状の効力がその場所に存在する物にも及ぶのかが問題となる。

(2)218条が令状において、「場所」の記載を要求した趣旨は、被疑者の財産権、プライバシー権を保護するとともに不服の申立ての便宜を図るという点にある。そして、物に対するプライバシーは場所に対するプライバシーに包摂されていると解することができる。そのため、令状に場所の記載があれば、その場所に存在する物に対しても、令状の効力が及ぶと解する。

(3)本件においても、キャリーバッグはA方居室内に存在したのだから、令状の効力はキャリーバッグに対しても及ぶ。

2(1)もっとも、このキャリーケースは、甲が所持していたのだから「被告人以外の者の・・物」とも思える。その為、このキャリーバックに対して捜索を行うためには、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」が必要となる。(222条前段、102条2項)

(2)Pは、甲が覚醒剤に関する物を同キャリーケースに入れて持ち出そうとしていたのではないかとの疑いを抱き、甲に対し、再三にわたり、同キャリーケースを開けて中を見せるように求めたにもかかわらず、甲はこれを拒否している。通常、このような疑いをかけられている場合には、その者が関連する物をもっていない場合には、これに応じるはずである。それにもかかわらず、甲は上記の様な態度を採っている。

この様な状況に照らすと、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」はあったといえる。

そのため、Pはキャリーケースの中の捜索を行うことができ、この行為は適法である。

第2 ②の行為について

1(1)この行為についても、上記の令状の効力はそのボストンバッグに対しても及ぶものと考えられるが、このボストンバッグはPが令状を甲に対して呈示した後に持ちこまれたものである。その為、この様に令状の呈示をした後に持ち込まれた物に対しても、令状の効力が及ぶかが問題となる。

(2)この点について、令状の提示が要求されている趣旨は(222条前段、110条)は処分を受ける者に受任の範囲を明示させることにより、不服申し立ての機会を与える点にある。そのため、令状の効力が及ぶ範囲は、令状呈示の時点において存在した物のみに及ぶものではない。また、令状呈示時点の物にのみ効力が及ぶとした場合には、偶然の事情により提令状の効力が及ぶ範囲が左右されてしまうため、妥当でない。

(3)そのため、ボストンバッグにも令状の効力が及び得る。

また、ボストンバッグは乙が持ち込んだものではあるが、Pが再三にわたり、その中身を見せる様にいったにもかかわらず、これを拒否していたのだから、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」にあったといえる。そのため、令状の効力はボストンバックにも及ぶ。

2(1)もっとも、Pらは乙を羽交い絞めにしているが、この行為は「必要な処分」(222条前段、111条)といえるのであれば、適法となる。

ここで、「必要な処分」とは、捜索差し押さえの為の合理的な範囲で必要となる付随処分と解される。

(2)Pらは上記の様に、再三にわたり乙に対してボストンバッグの中身を見せる様に求めているのにもかかわらず、これを断っているため、覚せい剤等を所持している嫌疑が強まっている。この場合には、羽交い絞めにしなければ、このボストンバッグの中身を捜索することは不可能であった。また、羽交い絞めは、乙を殴るなどの強力な有形力の行使を行っていたわけでもない。そのため。この羽交い絞めは「必要な処分」といえる。

以上により、②の行為も適法である。

以上

 

所感

 刑訴は見た瞬間に簡単な問題だなと感じた。これは書き負けてはいけないと考え、令状呈示後の持ち込みの論点で理由を厚く論じるなどの工夫を凝らしてみた。しかし、よくよく考えると、キャリーバッグを開けることについても、「必要な処分」のあてはめが必要なのではと感じるように思える。(なお、試験後twitterを覗いたところ、「難しかった」などの意見多数)色々な論じ漏れも加味した上で、最高でも評価はCが妥当な範囲か。。。。